虫唾も肉離れ

取り留めもなさすぎる

「食を嗜む」ということについて

学生時代の僕の食生活はあまりに酷かった。

でもきっとこれは僕だけじゃなくて、むしろ男子大学生の模範とも呼べる食生活であったとは思う。

男子大学生なんて、大半がラーメンとモンスターエナジーと性欲を燃料にして生きていて、僕の学生生活も大方そんな感じだった。酷い時は週に3日ラーメン、家でもお惣菜やカップ麺中心、間食に実家から送られる大量のスナック菓子、極め付けにエナジードリンク・炭酸飲料。そんな食生活を続けていればよっぽどの体質じゃない限り、目に見えて太る。僕もピーク時(大学三年の後半あたり)には、4ヶ月程で7キロぐらい増えた。

流石にこのままではキリが無いと思い、それ以来ラーメンは週に一回と抑えながら、それなりな食生活を営んできた。

そして大学卒業後に、私生活にちょっとした影が落ち(もちろん比喩的な意味だが)、そこから10キロ近く体重を落とす結果になってしまった。

まあ元々が太り過ぎてしまっていたため、自分の身長からすれば、標準か、少し下までに落ち着いたくらいの体重だったので、自分はそんなに気には留めていなかったものの、やはり親や友人からはかなり心配された。その「闇の期間」としてはおよそ2ヶ月も無いくらいだったが、その間ほとんど僕は腹を満たすことの出来ない精神状況にあった。

それからはまあ人並みに食事も摂れるようになって、何とか今の今まで生きながらえている。


そして今現在、僕は仕事の関係で人によく「おススメのお店」を尋ねられるんだけれど、いっても僕はまだ大学生に毛が生えた程度の23歳の小坊主。まだまだ世の中知っている事よりも知らない事の方がずっと多い。新聞も読まないし、全国の県庁所在地を正確に把握しているかどうかもかなり怪しい。おまけにコーヒーだって嗜めない。それに大してお金があるわけでも無いので、ピシッとドレスコーデをして行くようなレストランや、一周するのに星新一のSSを丸一冊読み切れてしまうような円卓のある中華料理店とかは中々気軽に行けない。

結局はサイゼリヤと王将に落ち着いてしまうし、何だかんだかなりテンションが上がる。

ただ、そこまでラグジュアリーでないにしても、頻繁でないにしても、無理のないくらいにそこそこ良いものは食べておくべきだな、と思うようにはなってきた。実際自分が行ったことのない店を紹介するのもアレだし。


そこで話は少し変わるけれど、僕は先日こんな本を読んだ。

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平野紗季子さんの『生まれた時からアルデンテ』というフードエッセイだ。


僕は彼女をセブンルールという番組で知り、それ以来影ながらファンでいるんだけれど、僕はこの本で彼女の食に対する考え方だったり感じ方に凄く感銘を受けた(ただこれ以上僕が彼女の素晴らしさを語ろうとすればするほど薄っぺらくなりそうなので、気になる方は是非著書を手にとって見て下さい)。

その中でも特に僕が深く頷いたのはこういう記述だった。


「人と食事をする場合、純粋に食べものと向き合うことは難しい。「人と食べると何でもおいしい」信仰の人たちは、"人と人の間、媒介物"として食を捉える。」(「共食弧食問題」『生まれた時からアルデンテ』)


確かに僕もそうだった。親や友人や先輩後輩、久々に出会った知人、いずれにしても殆どの食事が「何かを語るため」の食事であって、「食事そのものを楽しむ」食事では無いような気がする。もちろん場合によっては、「何か話したいテーマがある」前提で皆が集まり、それを踏まえての食事が執り行われる事も大いにあるが、「◯◯を食べに行こう」と出掛けた挙句、最終的には食事そっちのけで「△△と◇◇が別れたらしいよ」みたいな話で延々盛り上がったりする事もある。

こうやって思い返せば思い返すほど、勿体ないことしてたな~と猛省したくなるが、唯一僕が共に食事をする人で、「この人とならちゃんと食事を嗜めている」と実感できる人がいる。

そうです、彼女です。


散々長ったらしい文章読ませておいて結局ただの惚気かよ、と今にもブラウザバックを企んでいるそこのあなた、一度その指を止めてください。今回はそういった類の話ではないのです。


僕にはかれこれ付き合って2年半とちょっとぐらいの彼女がいるんだけど、もちろん何度も何度も食事を共にした。自炊外食問わずだ。

特に最近なんかは月に二回ほど、意識的に「まあまあ良い」外食に出かけているんだけれど、そうでないにしても、僕たちは食事を終えるのが割に早い。ほぼ同じタイミングで着席した隣の人がまだ盛り上がっている中で僕たちはお会計、なんて事がよくある。これはお互いがお互い早食いという訳ではなく、「食事中にあんまり話をしない」からだと思う。

僕も彼女と付き合い始めた当初は、お互い食後に「無言になっちゃったね」なんて言い合っていたけれど、彼女と食事を摂る時は自然と無言になって、食に集中することが出来るし、向き合えている気がする。ただそれは二人が元来そういうタイプの人間だったのではなく、比較的彼女が食事中は無口なタイプだから僕も必然的にそうなってしまっているだけなのだ(相手がお喋りだと僕も負けじと喋ってしまう)。

なので僕も余計なことは考えず、目の前に出された料理に真摯に向き合う事が出来る(例えそれがラーメンでも餃子でも子羊のコンフィでも)。


ここまで書いておいてあれだが、結局「一人で食事に行けばいいのでは?」とも思われそうだが、皆んなが皆一人で軽々と飲食店に入れるわけではない。もっとも僕もカフェやラーメン屋くらいだったらよく一人でも行くが、特にレストランとなると一人じゃどうも手持ち無沙汰だし、やっぱり食後に「あのハンバーグがどうだった」だの「あのパスタがどうだった」だの意見交換するのは個人的な楽しみでもあるからね。


そんな具合に、これからも普段は慎ましく、時に豪勢に、食事を嗜みながら色んなお店を開拓出来ればと思う。